アメリカのテレビで商業音楽(市販楽曲)が使われている割合はわずか7%

フィンガープリント技術による利用状況調査をチェック

アメリカのテレビで商業音楽(市販楽曲)が使われている割合はわずか7%

アメリカの業務用音楽(ライブラリー音楽)の業界団体であるProduction Music Associationが先日発表した調査レポートによるとアメリカのテレビ放送で商業音楽(市販楽曲)が使われている比率はわずか7%とのことです。この記事では、アメリカに先駆けて行われたヨーロッパでの調査結果も併せて紹介します。

調査の概要

この興味深い調査は、アメリカの業務用音楽(ライブラリー音楽)の業界団体であるProduction Music Association(略称=PMA)が、音楽フィンガープリント技術を使って放送のモニタリングを行なっているBMAT Music Innovators社(略称=BMAT)と協力して行なったもので、2022年の2月から3月にかけての一ヶ月間、全米のメジャーテレビ局を含む47チャンネルを対象に行われました。

●参考:PMA「NEARLY HALF OF ALL MUSIC PLAYED ON BROADCAST & CABLE TV IN U.S. IS PRODUCTION MUSIC」

これに先立ち、2021年にヨーロッパの業務用音楽の業界団体であるInternational Production Music Group(略称=IPMG)が、同じくBMATと協力して同様の調査をイギリス、フランス、ドイツで行い、調査結果を発表しています。この時のモニタリング対象はイギリス6チャンネル、フランス7チャンネル、ドイツ50チャンネルでした。

なお、それぞれの調査結果の詳細は以下で見ることができます。

●参考:BMAT「The state of TV music usage across the US」
●参考:BMAT「The state of TV music usage across the UK」
●参考:BMAT「The state of TV music usage across France and Germany」

アメリカ、ヨーロッパともに業務用音楽の利用が多いという結果に

では、それぞれの調査結果を見ていきましょう。以下、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの4カ国分のデータを比較しますが、アメリカのみ集計方法に若干の違いがあるので、本来は横並びに比較しても正確な比較にはなりませんが、傾向を知るという観点でわかりやすいように横並びに扱います。

番組と広告の割合

番組と広告の割合

まず、広告と番組の割合です。広告の割合は、イギリス、フランス、ドイツでは10%以下となっていて、アメリカが最も高く20%となっています。ただし、母数となるのがイギリス、フランス、ドイツは全オンエア時間、アメリカは全オンエア時間中の音楽が利用されている部分となっているので比較するのには注意が必要です。広告で音楽が使われていないというケースは少ないと思われますので、アメリカの数値は多少上ブレしていると思って良いでしょう。

音楽利用の割合

音楽利用の割合

次に、音楽が利用されているか利用されていないかの割合です。音楽有りの割合は、ヨーロッパの3カ国は40%台で、アメリカだけ40%を切る39%という値でした。総じて5割以上およそ6割は音楽の無い状態ということです。なお、母数となるのがイギリス、フランス、ドイツは番組のみ(=広告除く)であるのに対して、アメリカは全オンエア時間(=広告含む)となっています。

また、アメリカの調査では、ライフスタイル、ドキュメンタリー、リアリティショー系のチャンネルでは音楽利用率が60%前後と平均より大幅に高く、逆にニュース、トークショー系のチャンネルでは音楽利用率が10-20%とかなり低くなっています。

業務用音楽と商業音楽の割合

業務用音楽と商業音楽の割合

最後にこの調査のメインとなる部分、業務用音楽(Production Music)と商業音楽(Commercial Music=市販楽曲)の割合です。商業音楽の割合は、アメリカ7%、イギリス6%とこの2カ国が低く、ドイツ15%、フランス30%となっていますが、業務用音楽の割合は総じて40%強となっており、4カ国とも商業音楽よりも業務用音楽の方が多く利用されていることがわかります。なお、母数となるのがイギリス、フランス、ドイツは番組のうち音楽利用分(=広告除く)であるのに対して、アメリカは広告も含んだものとなっています。

上記のうちの「判別不能」とはBMATのフィンガープリントデータベースに登録されていない楽曲(音源)、もしくは、音楽のレベル(音量)が小さすぎるなどの理由で判別できなかったものということになります。登録されていない楽曲には、書き下ろしの劇版音楽、インディペンデントの業務用ライブラリー、インディペンデントのアーティストやレーベルの音源などが含まれます。ということは、この判別不能の中にもある程度の業務用音楽も商業音楽も含まれていると考えられますので、本来であればそれぞれの割合は両方とも今の数値よりも上がると思われます。そこで単純に判別不能分を除外して比較してみると、アメリカとイギリスは業務用音楽が商業音楽の6倍以上多く利用されていて、ドイツは約3倍、フランスは約1.5倍となっています。

このように、アメリカとイギリスの方がドイツとフランスよりも業務用音楽を多く利用している傾向がわかります。この理由として考えられることとして、シンクライセンス(=映像に同期して音楽を利用するライセンス)がPRO(=音楽著作権管理団体)と放送局との包括契約に含まれるかどうか点があります。ドイツとフランスは日本と同様にシンクライセンスが包括契約に含まれるとのことですが、アメリカとイギリスは含まれておらず個別にランセンス取得手続きをしないといけません。このことがライセンス処理が簡単な業務用音楽の利用を後押ししているものと思われます。

日本の場合は?

さて、日本ではどうなっているでしょうか。残念ながら同様の調査はありませんのでいくつか考察してみます。

まず、「番組と広告の割合」ですが、日本民間放送連盟放送基準を見てみると「週間のコマーシャルの総量は、総放送時間の18%以内とする。」という記述があります。ということは上限が18%ですのでアメリカよりは少なく、イギリス、フランス、ドイツよりは多めということが想定できます。また、「音楽利用の割合」ですが、欧米の番組と比較して日本の番組の方が音楽をより多く利用している印象がありますので、4カ国より高めで50%超えるのではないかと推測します。

最も大きな違いを感じるのは「業務用音楽と商業音楽の割合」です。欧米とは真逆で圧倒的に商業音楽の利用率が高いのが日本の特徴です。5-10年前の印象では業務用音楽:商業音楽の比率は1:9または2:8くらいだったでしょう。現在は、配信をはじめとする二次利用への対応とそれに伴う放送局系音楽出版社の業務用音楽ライブラリーへの参入が進み、以前よりは業務用音楽の利用率が上がってきていますが、まだまだ5:5にも程遠いのではないかと推測します。

Royalty-free Lab 編集部