映像作品に音楽を使う時に必要なこと

音楽の権利処理(ライセンス)の基本

映像作品に音楽を使う時に必要なこと

映像制作に携わる人にとっては、ややこしく面倒なもののうちの一つが音楽を使うことではないでしょうか?確かにややこしいと思います。しかし音楽が映像作品の印象を左右することもあり、音楽のライセンス処理は避けては通れないものです。この記事では、映像作品に対する音楽ライセンスの基本を整理します。巷には簡単に利用できるロイヤリティフリーの音楽がたくさんありますが、それらを利用する場合でも基本が理解できているとより安心して利用できるでしょう。

関係する音楽の権利

まず最初に基本的なことを確認しておきます。とは言え、著作権法を一から説明し始めると長くなりますし、難解な話になりがちなので、映像作品に音楽を使う、という点に絞って整理していきます。

映像作品に音楽を使う(映像作品を制作し、出来上がった映像作品を利用する)際に関係してくる音楽の権利は以下の図のようになっています。

映像作品に関わる音楽の権利

著作権はその音楽(楽曲)自体に関する権利、著作隣接権は音楽を固定した音源に関する権利です。ちなみに音楽の権利を表す際には、著作権法上での名称とは少し違う名称を慣習的に使っています。大きくは「録音権」(法律上は複製権)と「演奏権」(法律上の演奏権だけではなく、公衆送信権なども含みます)の2つです。録音権は音楽を録音、録画など固定することに関わる権利で、その中でも映像作品に同期(シンクロ)して固定する場合に関わる権利を「シンクロ権(Synchronization Rights)」と呼んでいます。そして、出来上がった映像作品を利用(放送したり、ネット配信したり、イベント会場や店頭などで上映したり、など)する際に関わるのが演奏権(Performance Rights)です。演奏と言うので、楽器で演奏することだけを指すように勘違いされることもありますが、それだけではなく、公衆に音楽を聞かせる行為すべてが対象となります。

また、一般的に音楽を利用する=音源を利用するということになるので、その音源の権利も関わってきます。一般的に「原盤権(Master Rights)」(法律上は著作隣接権のレコード製作者の権利。著作隣接権の実演家の権利を含む場合も有り。)と呼ばれるものです。

映像作品に音楽を使う際には、このようにシンクロ権、演奏権、原盤権の3つの権利が関わってくるということになり、利用にあたっては、それぞれの権利者から許諾を得る(ライセンスを取得する)ことや使用料(ロイヤリティ)を支払うということが必要となります。

ここからは、いくつかのパターンでもう少し具体的に見ていきましょう。

テレビCMにアーティストの楽曲を使う場合

まず、ベーシックなケースの例として、テレビCMにアーティストの楽曲=商業音楽(Commercial Music)を利用する、というケースを見ていきます。テレビCM以外の場合でも、最も基本的なケースとなります。後述する他のケースは、すべてこのケースの手続きの一部を簡略したものと考えられます。

仮にメジャーアーティストの楽曲であれば、3つの権利それぞれの権利者(交渉窓口)は以下のようになるのが一般的です。著作権の権利者は音楽出版社であり、さらにPRO(著作権管理団体の総称、別記事にて解説)に信託/管理委託されています。海外と日本とで多少の違いはありますが、基本的にはシンクロ権の許諾は音楽出版社と交渉、演奏権の許諾はPROの規定に従って使用料を支払うことで処理をする、ということになります。音源の権利(原盤権)の窓口は、レコード会社(レーベル)となります。

なお、広告での音楽利用については、JASRACウェブサイトに手順が整理されているので一度見ておくと参考になります。

●参考:JASRACウェブサイト ー 広告での音楽利用


<メジャーアーティストの楽曲の場合>

手続きすべき権利交渉/手続きの窓口
シンクロ権音楽出版社
演奏権PRO(著作権管理団体の総称、例:JASRAC、NexTone等)
原盤権レコード会社

また、完全に自己完結しているDIYインディーズアーティストの場合は、本人との交渉のみで手続きを行うことができますが、3つの権利について許諾手続きをしているということを忘れないようにしましょう。なお、DIYインディーズアーティストの場合でも、著作権(特に演奏権)の管理をPROに委ねているというケースはあります。特に海外アーティストの場合は日本より多いです。その場合は、演奏権の許諾はPROの規定に従って使用料を支払うことで処理をする、ということになります。


<DIYインディーズアーティストの楽曲の場合>

手続きすべき権利交渉/手続きの窓口
シンクロ権作曲家(アーティスト本人)
演奏権作曲家(アーティスト本人)またはPRO
原盤権セルフレーベル(アーティスト本人)

テレビ番組の場合

テレビ番組(放送コンテンツ)の場合は、大量に音楽が必要ということもあり、どこの国でも放送局とPROとの間で包括契約(ブランケット契約)が行われています。日本の場合は3つの権利すべてがこの包括契約(原盤権については日本レコード協会との包括契約)で処理されています。これにより、制作サイドでは個別に音楽の権利処理をすることなく利用することができます。(ただし、JASRACまたはNexTone管理楽曲かつ日本レコード協会が権利者から管理委託を受けている音源であれば、という条件になります。)


<日本のテレビ番組の場合>

手続きすべき権利交渉/手続きの窓口
シンクロ権PRO(JASRAC/NexTone)と包括契約
演奏権PRO(JASRAC/NexTone)と包括契約
原盤権日本レコード協会と包括契約

この包括契約の仕組みは国ごとに少しずつ違いがあり、特に日本とアメリカでは大きく違っています。アメリカの場合は、包括契約の対象が演奏権のみとなっているので、シンクロ権と原盤権については権利者と個別交渉となる点で日本とは大きく異なります。


<アメリカのテレビ番組の場合>

手続きすべき権利交渉/手続きの窓口
シンクロ権音楽出版社
演奏権PRO(ASCAP/BMIなど)と包括契約
原盤権レコード会社

ライブラリー音楽を利用する場合

前述のアメリカでの放送局とPROの包括契約で処理できない部分の手間(やコスト)を解決する役割として発達してきたのが、業務用音楽(Production Music)ライブラリー音楽(Library Music)と言われるものです。シンクロ権と原盤権の窓口がライブラリー会社に一本化されていて(商業音楽の場合は音楽出版社とレコード会社で別々)ワンストップで手続き可能な点が特徴です。さらに、シンクロ利用されることを前提としていますので、アーティスト楽曲のようにシンクロ権の許諾交渉が大変ということもありません。利点はこのようにシンクロ権と原盤権の処理についてですので、演奏権の許諾は通常通りPROの規定に従って使用料を支払うことで処理をするということになります。(放送の場合は包括、その他は個別に手続き。)


<ライブラリー音楽の場合>

手続きすべき権利交渉/手続きの窓口
シンクロ権ライブラリー会社
演奏権PRO
原盤権ライブラリー会社

ロイヤリティフリー音楽を利用する場合

前述のライブラリー音楽で残っていた演奏権のPRO手続き(と支払い)についても、権利者が自己管理する(PROに管理委託しない)ことで、3つの権利すべての手続きをワンストップで行えるようにしたのが、日本式のロイヤリティフリー音楽ライブラリーということになります。


<日本式ロイヤリティフリー音楽の場合>

手続きすべき権利交渉/手続きの窓口
シンクロ権ロイヤリティフリーライブラリー会社
演奏権ロイヤリティフリーライブラリー会社
原盤権ロイヤリティフリーライブラリー会社

なぜ、わざわざ「日本式」と言っているかというと、海外と日本で「Royalty-free Music」「ロイヤリティフリー音楽」の考え方が微妙に違うからです。海外の音楽ライセンスサービスがRoyalty-free Musicとウェブサイトに表示していても、演奏権の扱いについてはPRO管理となっている楽曲が混在している(もしくは全てがPRO管理楽曲)というケースがほとんどです。このあたりの詳細については、別記事にて解説します。

この記事では、映像に音楽を利用する際に関わってくる音楽の3つの権利、シンクロ権、演奏権、原盤権について整理してきました。3つの権利それぞれについて、誰と交渉し許諾を得る必要があるのかという点を理解すると、制作する映像作品の利用用途次第でどのような音楽を利用すると手続きが楽になるのかという判断がしやすくなります。

Royalty-free Lab 編集部