2022年7月後半から8月にかけて、Meta(Facebook/Instgram)と音楽業界(音楽の権利者)との間で立て続けに大きなニュースが飛び交いました。この記事では、この一連の出来事について考察していきます。
目次
Epidemic SoundがMetaを訴える
まず、7月21日に驚くべきニュースがありました。ロイヤリティフリー音楽レーベル最大手のEpidemic Soundが著作権侵害でMetaを訴えたということです。
●参考:TorrentFreak「Meta Hit With Massive Piracy Lawsuit Over Epidemic Sound Royalty-Free Music」
●参考:Reuters「Lawsuit says Meta stole hundreds of songs from Swedish music label」
最近、動画ソーシャルメディアはTikTok化していっていて、MetaのReel、YouTubeのShortなどTikTokライクな見た目や操作感のものが主流になってきています。ユーザーはそれぞれのプラットフォームが用意している音楽ライブラリーの中にある楽曲であれば自由に無料で自分の動画に使うことができます。ただし、それはそれぞれのアプリで動画に音楽を付ける場合に限っていて、アプリ外で編集して音楽を付けた動画を投稿した場合には楽曲情報(タイトルやアーティスト名)は表示されず、すべて「Original Audio」などという表示になってしまいます。
ここで問題となるのは、ライブラリー内にある楽曲と同様に「Original Audio」の場合でも投稿した人とは別のユーザーがその音楽を自分の動画に再利用することができてしまう 、というこれらのプラットフォームの仕組みです。プラットフォームが音楽権利者との間でライセンスを受けていて、プラットフォーム内(アプリ内)で楽曲情報が管理されているライブラリー内の楽曲と違い、楽曲情報とリンクしていない「Original Audio」の場合、プラットフォームから音楽の権利者へ使用に見合う費用が支払われる保証がありません。(おそらく無理でしょう)
TikTokやYouTube Shortでも同様のことは起こりますが、それはユーザー間で勝手に行われていること(プラットフォーム側がその仕組みを提供しているので、その点では責任はありますが)と考えられなくもないです。しかし、Reelでは、アプリ内の音楽ライブラリーのページに「Original Audio」もリスト化して表示され、そこから楽曲を選ぶことができます。これはReel自体が「Original Audio」の楽曲を積極的にユーザーに提供しているように見えます。今回の訴訟の大きな要因となったのは、この点であろうと思われます。
Kobalt Music Publishingが全楽曲を引き上げる
ここからは前項の訴訟問題と少し違う観点での話となります。
7月24日にKobalt Music Publishingが彼らの持つ70万曲をFacebookとInstgramから引き上げるという記事が出ました。Kobaltは独立系最大の音楽出版社で、Paul McCartney、Foo Fighters、The Weekndなど名だたるアーティストの楽曲の著作権を管理している会社です。イギリスとアメリカの典型的な週のチャート(トップ100)の40%の楽曲の音楽出版社だと言われているくらいの大手です。これはMetaにとって大きな打撃のように見えますが、水面下で何が起こっているのでしょうか。
MetaがMusic Revenue Sharingを発表
前項の記事の翌日7月25日に今度はMetaによる音楽権利者への支払いの新しい仕組み「Music Revenue Sharing」が発表されました。その概要は以下です。
- Facebook上のUGCビデオ(60秒以上)から発生する広告収入が対象(現時点ではInstagramは含まない)
- 広告収入の20%を動画クリエイターが受け取り、80%を音楽権利者とMetaで分配する(音楽権利者とMetaの間の分配比率は明らかにされていない)
これはYouTubeがパートナープログラムによって動画クリエイターに広告収入の一部を分配し、かつ、コンテンツIDによって音楽権利者にも分配をしている仕組みと同様のものをMetaも導入するということのようです。これまでMetaは実際の利用状況を反映した音楽使用料を権利者に支払うのではなく、権利者(大手レーベルや大手出版社など)と個別に取り決めた固定の金額を支払っていて、音楽権利者側からはYouTubeと同様の仕組みが待たれていたとのことなので、これで一歩進んだことになるのでしょう。
おそらく前項のKobaltの件は、この新しい契約条件が納得できるものではなかったことによる結果であろうと推測できます。この時点では他の音楽権利者側がどのような対応を取るのか大変気になるところでしたが、この一週間後の8月1日にUniversal Music Group(UMG)がMetaとの新たな契約を締結したとの記事が出ました。そしてさらにその10日後、UMGと並ぶ3大メジャーのうちの一つWarner Music Group(WMG)もMetaとの新たなライセンス契約を締結したとの記事が出ました。これでYouTubeの仕組みに似たMetaによる広告収入分配による音楽ライセンスの仕組みは無事にスタートできることになったようです。
ここまで、2022年夏の3週間の間に次々と出たMetaと音楽業界に関わる記事を見てきました。Epidemic Soundによる訴訟、そしてMetaによるMusic Revenue Sharingがどのように進んでいくのか、しばらくは目が離せません。
(更新)ReelがOriginal Audioのリストを削除
(2022/9/10更新)
第1項でふれたReelアプリ内の音楽ライブラリーのページに「Original Audio」のリストが表示される件ですが、現在は削除されていることが確認できました。(いつのタイミングで削除されたかは不明)
これは、明らかにEpidemic Soundからの訴えに対する対応だと思われます。これによってReelだけが行なっていたおかしな仕様はなくなり、TikTok、Short、Reelすべてがほぼ同じような音楽利用の仕組みとなりました。
(2022/9/23更新)
第2項でふれたKobalt Music Publishingによる曲の引き上げですが、新しい契約の合意が成り立ち、70万曲がFacebookとInstagramに戻ることになったとのニュースがありました。