他人の曲を勝手に登録?コンテンツID詐欺で20億円!

YouTubeコンテンツIDに関連した驚くべき事件

他人の曲を勝手に登録?コンテンツID詐欺で20億円!

YouTubeコンテンツIDに関連してアメリカから驚くようなニュースが入ってきました。権利者だと偽ってコンテンツIDに登録し、約5年間で20億円以上を騙し取った2人組が起訴されたとのことです。この記事では、この驚くべき事件の概要とともにコンテンツIDの仕組みなどについても触れていきます。

MediaMuv事件の概要

よく日本のYouTuberの方々が著作権申し立てを受けた時に「詐欺団体」という表現を使っていることを目にしますが、実はほとんどの場合は、一般の方に知られていない名前の会社というだけで、正規にコンテンツIDの登録窓口として権利者の代理をする権利を持っている会社の名義による申し立てです。(これについては別の機会に解説する予定です。)

しかし、今回の事件はそのようなものではなく、正真正銘の詐欺行為によるものです。

アリゾナ州でMediaMuvという会社を経営する二人組が、自分たちが権利を持っていない50,000曲以上の他人の音源について、権利者(の代理人?)だと虚偽の申告をしてコンテンツIDに登録し、2017年からの約5年間でトータル2,000万ドル強(日本円で23億円強)の収益分配をYouTubeから得ていたということで、詐欺や加重ID盗取の罪で起訴されました。(現時点では有罪確定ではなく、あくまでも起訴されたという事実のみです。)

起訴状によると大まかな流れは以下のようです。

2017年2月MediaMuvからY.T.(明らかにYouTubeのこと)に50,000曲以上の権利者(の代理人?)だと連絡。
2017年4月MediaMuvとA.R.(おそらくAdRevのことだと思われる)がコンテンツIDの利用と収益分配に関する契約締結。
2017年5月「Me llamas」という曲をコンテンツIDにアップロード(登録)。その際にJ.L.P.(この曲の本当の権利者)のIDを利用。
2018年5月第三者からAdRevに対してMediaMuvに収益分配をするのは侵害行為だと告発があったが、MediaMuv側がそれを否定。

その後、現在までにYouTubeからAdRevを経由して、MediaMuvが継続的に受け取った収益分配の総額は2,000万ドル以上とのことで、代理人と称していながら本来の権利者には一切収益分配をしていなかったというのが事件の概要です。

●参考:TorrentFreak「U.S. Indicts Two Men for Running a $20 Million YouTube Content ID Scam」
●参考:Digital Music News「Feds Uncover Alleged $20 Million Music Royalty Scam — 50,000+ Songs Illegally Claimed」

なぜこのようなことが可能だったかは謎ばかり

この事件、金額も驚きですが、なぜこんなことが可能だったのかわからないことが多いです。

謎その1:どうやって50,000曲もの音源を手に入れたのか

権利者(の代理人)だと偽ってコンテンツIDに登録された楽曲(音源)には、市販されている古めの音源(特にスペイン語圏のもの)が多いようです。CDからリッピングしたりしたのでしょうか・・・。50,000曲分とすると相当な分量です。

例えば、起訴状に書かれている情報から推測すると、おそらくこの曲が50,000曲中の1曲だと思われます。
<Jose Luis Perales – Me llamas>

また、YouTubeのフォーラムを見ると、自分の曲が勝手に登録されて自分のビデオに対して著作権申し立てがつけられたと書いている人がいました。もし、そういう風に音源を集めたのなら相当悪質です。

謎その2:なぜ権利者ではないのにコンテンツIDに登録できたのか

この事件の一番の謎は、なぜ権利者ではない者(会社)がコンテンツIDに登録できてしまったのかという点です。権利者もしくはその代理人ということを証明する必要があるはずですが、偽造した契約書か何かを提示したのでしょうか。その点については起訴状では触れられていないので不明です。

なお、音源には国際ルールで、ISRCというそれぞれの音源(マスターレコーディング)に固有で一義的(ユニーク)なIDがあります。このISRCの情報によって、音源と権利者が紐づいて管理できます。しかし、コンテンツIDへの登録にこのISRCは必須になっていないらしく、その点も虚偽の申請(権利者ではない者が登録する)を可能にしてしまっていたのかもしれません。

●参考:ISRC(Wikipedia)

謎その3:なぜYouTubeは偽の権利者に収益分配を払い続けたのか

起訴状によると2018年5月の時点でAdRevに対して侵害の告発をした人がいたとのことです。ただ、MediaMuv側がこの告発を否定したということで、AdRevはそれ以上何もできなかったのかもしれません。

コンテンツIDは音源のフィンガープリントが生成され登録される仕組みですので、同じ音源を後から登録しようとすると権利競合が発生します。そのような場合、YouTubeは当事者同士で解決するようにというスタンスなので、虚偽の権利者が先に登録してしまっていた場合、なかなかややこしいことになります。今回もMediaMuv側はあとから起こった権利競合についてことごとくそれを否定し、交渉を拒否していたようです。2017年の時点だと、まだ現在のように世の中のほとんどの楽曲(音源)がコンテンツIDに登録されているという状況にはなっていませんでした。市販楽曲でも古い曲や英語圏の曲ではないものなどはまだ登録されていなかったのかもしれないので、彼らは多くの楽曲(音源)を本当の権利者より先に登録してしまうことができたのでしょう。(実際に今回の対象となっている曲は前述の楽曲のようにスペイン語圏の国の楽曲が多いようです。)

コンテンツIDの登録は早い者勝ち?

仕組みや立場を考えるとYouTubeが権利競合などの問題には介入せず、当事者間での解決を求めるということは理解できます。そのため、やはり最初の登録時点で本当に権利者か(もしくは正規に代理する権利を持っているか)どうかの確認が重要であったでしょう。また、権利競合が起きている音源についての収益分配を保留するということができていれば今回の事件の被害額がここまで大きくなることは無かったでしょう。

(追記:本記事公開後に入手した情報によると、現在は権利競合が起きているものについての収益分配は保留されるようになっているそうです。)

コンテンツIDへの登録

コンテンツIDの基本は音源を登録し、YouTubeにアップロードされる動画内に利用されている音楽(音源)とのマッチングを行う仕組みですので、権利者が登録するのは音源です。

音源の権利者のそれぞれが誰でも直接YouTube(コンテンツID)に登録できるわけではなく、コンテンツIDには利用資格があります。

●参考:YouTubeヘルプ – Content ID の仕組み

したがって、音源の権利者がコンテンツIDに登録するためには、ほとんどの場合、この利用資格を持っている会社(コンテンツID登録窓口会社・・・的確な名称がないので一応このように呼んでおきます)を経由することになります。今回の事件で出てきたAdRevはこの業務をしている会社です。他にはHAAWKやBelieveなどが有名ですが、この業務をできる会社はそれほど多くはありません。そのため、この図の音源の権利者と窓口会社の間に二次卸的にさらに別の会社が入ることも多くなっています。一部のデジタルディストリビューター(Spotifyなどへの配信の窓口をする会社)などが一例です。

コンテンツIDの登録と分配の流れ

YouTubeからの収益分配はこの音源登録のルートの逆をたどります。今回の事件では、YouTube→AdRev→MediaMuvという流れになりますが、彼らが本当に代理人なのであれば、本来はそこからここの権利者への分配が必要になりますが、彼らはそれを一切していなかったということです。

前述のように、YouTubeの「著作権申し立て」は、音源がマッチしたということによって発生します。しかし、コンテンツIDの仕組みも進化していて、現在では、音源の権利(原盤権)に加えて楽曲の権利(著作権)も扱えるようになっています。「歌ってみた」「弾いてみた」の動画でも著作権申し立てが発生することがありますが、それはこの仕組みが導入されたからです。これは、1階に音源、2階に楽曲というような2階建構造になっていて、これがまたややこしい事態を起こしています。(これについては別の機会に解説する予定です。)

なお、コンテンツID、著作権申し立てについては、以下の記事でも解説しています。

今回は、驚くような事件を取り上げましたが、かなり特殊な事例だと思われます。日頃YouTube上で発生している「著作権申し立て」が問題なのではなく、権利者ではないのにコンテンツIDに登録して収益を得ていたということが問題の根本です。この事件の被害者は、音源の本来の権利者でありながらコンテンツIDに登録もできず、受け取るべき収益分配を受け取れなかった(=横取りされた)人やレーベルと言えます。

(更新)裁判終了し、解決へ

(2022/5/2更新)
この事件に進展がありました。被告が罪を認め、検察と司法取引を行なったとのことです。ひどい犯罪なので有罪なのは当然です。
・共謀(クラスD重罪)で最高25万ドルの罰金、最高5年の懲役(または両方)
・電信詐欺(クラスCの重罪)で告発し、最高25万ドルの罰金、最高20年の禁固刑(またはその両方)
これだけ見ると、2,500万ドルを不正に得ていた割には罰金が軽すぎるような気もしますが、上記とは別に損害賠償(上限2,500万ドル)もあり、銀行口座に加え、土地や車なども没収されて損害賠償に充てられるようです。これによって、本来の楽曲(音源)の権利者に彼らが不正に得ていたお金(のうちのいくらか)が渡るということで、それは本当に良かったです。

●参考:TorrentFreak「Man Pleads Guilty to $23m YouTube Content ID Scam」

この事件には我々にも教訓となる点あります。彼らは、コンテンツIDに登録されていない楽曲(音源)を意図的に探し出し、それらの権利者になりすまして登録し、今回の事件を起こしました。YouTubeでコンテンツIDによる著作権申し立てを受けるのが鬱陶しいということで、音源の権利者がコンテンツIDに登録すること自体が悪いことのように言われることがありますが、権利者が登録をしていないと今後もこのような犯罪が起きかねないということです。権利者は、YouTubeから収益を得たいとか、音楽を動画に利用している人を苦しめたいと思って登録しているのではなく、登録しておかないと自分たちの権利を守ることができないという側面もあることを理解しておく必要があるでしょう。

(2022/8/19更新)
AdRevの共同創業者で前社長(この事件を受けて社長を退任して戦略アドバイザーになっていたらしい)のNoah Becker氏がAdRevを退社したというニュースが入ってきました。AdRevもBecker氏も現時点ではこの訴訟では起訴されていませんが、AdRev自身もこの詐欺事件によって発生した手数料収入を得ていた立場ですので、今後何らかの動きがあるのかもしれません。

●参考:Billboard「AdRev Co-Founder Noah Becker Leaves Company」

Royalty-free Lab 編集部