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ロイヤリティフリーだと思っていたのに実はJASRAC管理楽曲?その時どうする?

ロイヤリティフリーだと思っていたのに実はJASRAC管理楽曲?その時どうする?

現在は数多くのロイヤリティフリー音楽のライセンスサービスがあり、海外発のサービスも日本から利用することが可能になっています。それらのウェブサイトに「Royalty-free」と表示されていたとしても、日本国内のサービスと海外発のサービスとではその意味合いが微妙に違い、その違いによるリスクが存在しています。ロイヤリティフリーだと思って使っていたら、実はJASRAC管理楽曲だった、という事態が起こります。この記事では、もし企業の商品紹介ビデオなどの映像作品にJASRAC管理楽曲を利用した場合、どのようなことが起こるのかを確認していきます。

Royalty-freeと書いてあってもにロイヤリティフリーではない?

日本のルールでは、「ロイヤリティフリー音楽」とは、JASRAC等のPRO(著作権管理団体)に管理されていない楽曲である必要があります。そのため、日本国内の音楽ライセンス会社が「ロイヤリティフリー音楽」と謳って運営しているサービスの場合は、基本的に扱われているすべての楽曲がPRO管理楽曲ではないものだけで構成されてることが多いです。(一部例外はあります。)

しかし、海外(特にアメリカ)では日本とはルールや慣習が違うため、PRO(ASCAPやBMIなど)の管理楽曲を扱っていても、「Royalty-free」と称していることがほとんどです。その場合、JASRACと海外の多くのPROとの間には相互に管理する契約がありますので、仮にASCAPの管理楽曲であれば、それはイコールJASRACの管理楽曲ということになります。そうなると日本のルールでは「ロイヤリティフリー音楽」では無くなってしまいます。

(日本と海外の違いについては、以下の別記事にて解説しています。)

JASRAC管理楽曲だと何が問題となるのか

映像作品に音楽を利用する時には、「シンクロ権」「演奏権」「原盤権」の3つの権利について、ライセンス処理が必要となります。もし、海外発の音楽ライセンスサービスを利用し、その曲がJASRAC管理楽曲であった(実際その可能性の方が高い)場合でも、シンクロ権と原盤権についてのライセンスは利用したライセンスサービスへの支払い(年間料金や曲ごとのライセンス購入)によってカバーされていると考えて問題ないでしょう。問題となるのは演奏権について、ということになります。

(3つの権利については、以下の別記事にて解説しています。)

(出所:JASRAC資料 – 管理委託範囲選択区分(演奏権分野)の運用に関するガイドライン )

この図は、JASRACが音楽権利者向けに公表している資料に掲載されているものです。細かく分類された用途ごとに管理委託(信託)するorしないが選択できるようになっています。この中で、オレンジ色の枠で囲まれている部分が演奏権に関わるものです。日本国内の楽曲については、権利者の意思で「放送・有線放送」だけを信託するとか、「上映・BGM等」を信託しないというようなきめ細かな運用が可能になっていますが、海外楽曲の場合は各国の管理の仕組みがすべて共通というわけではないので、基本的に演奏権全部(オレンジ色の枠内)をJASRACが管理することになります。そうなると、放送・配信・店頭等での上映など、完成した映像作品を利用する用途のほぼすべてが関係してくることになります。

用途別の注意点

ここからは、実際にJASRAC管理楽曲を(おそらく管理楽曲だという認識はなく)利用して映像作品を制作し、その映像作品の利用時に想定される様々なケースについて確認していきましょう。広告(CM)での利用とそれ以外の用途ではJASRACの規定が違いますので、それぞれ一般利用(広告以外)と広告利用に分けて整理します。

放送

映像作品を放送に利用するという場合、具体的には一般利用としては「テレビ番組」、広告利用としては「テレビCM」ということになります。

「テレビ番組」については、放送局とJASRACとの包括契約がありますので、JASRAC管理楽曲であっても問題なく利用できます。ただし、キューシートに正しく情報を記載して提出する必要があるということが利用した音楽ライセンスサービスの規約には明記されているはずです。この点はおろそかにしてはいけないことです。
「テレビCM」については、地上波放送については包括契約から除外されていますので個別の手続きと使用料支払いが必要となります。地上波テレビCMについては使用料が高額となりますので、JASRAC管理楽曲を知らずに使ってしまうと大きなリスクがあります。

●参考:JASRACウェブサイト ー 広告での音楽利用

一般利用広告利用
放送局の包括契約があるので個別の手続きなく利用可能
(ただし、キューシートの提出が必要)
JASRAC手続き/支払い必要

ウェブサイト

映像作品をウェブサイトで利用するという場合、具体的には一般利用としては「企業のウェブサイトなど」、広告利用としては「インターネット上の広告スペースでの配信」ということになります。
この場合はどちらも手続きと使用料支払いが必要となります。

●参考:JASRACウェブサイト ー インターネットCM配信での音楽利用(商用配信)

上記JASRACウェブサイトによると、企業(広告主自身)のウェブサイトでの配信についても、手続きが必要であることが明記されています。また、「インターネットCM配信」という表記になっていますが、CM用に制作した映像作品だけではなく、旧来「企業VP」「商品紹介PV」などという呼び方をされていた通常の映像作品も、現在(2017年4月1日以降)では「広告用複製物」として広告利用の対象となる可能性が高くなっていますので、注意が必要です。

●参考:JASRACウェブサイト ー 広告目的複製の範囲に関するガイドライン

なお、企業のウェブサイトでの利用について、例外として手続き不要で利用できる方法があります。YouTubeにアップロードした映像作品をウェブサイトに埋め込んで配信する場合に限り、JASRAC手続きなく利用可能となっています。おそらく現在はこの方法で動画をウェブサイトで見られるようにしているケースの方が多いと思いますので、その場合は手続き不要で利用できます。

●参考:JASRACウェブサイト ー 動画投稿(共有)サービスでの音楽利用
(ページ後半の動画投稿(共有)サービスで配信されている動画をタグ貼付・埋込の方法で外部のサイトで利用する場合)

一般利用広告利用
JASRAC手続き/支払い必要
(YouTubeからの埋め込みでの利用の場合のみ手続き不要で利用可能)
JASRAC手続き/支払い必要

YouTube

YouTubeの場合、一般利用とは、それぞれの企業等のYouTubeチャンネルにアップロードして配信する場合を指し、広告利用とはGoogle動画広告として広告出稿すること(Trueviewやバンパーなど)を指します。

YouTubeはJASRACと包括の利用許諾契約を交わしていますので、一般利用については手続きなく利用可能です。
広告利用は文字通り広告ですのでインターネットCM配信として、手続きと使用料の支払いが必要になります。テレビCMほどではないですが、単価×配信回数で計算されるものなので、高額となる可能性があり、注意が必要です。

●参考:JASRACウェブサイト ー 利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧

一般利用広告利用
手続き不要で利用可能JASRAC手続き/支払い必要

ソーシャルメディア(Facebook/Instagram)

主要なソーシャルメディアのうち、FacebookとInstagramについてはYouTubeと同様です。FacebookとInstagramもJASRACと包括の利用許諾契約を交わしていますので、一般利用(アカウントのタイムラインへの投稿)については手続きなく利用可能です。広告利用の場合もYouTubeと同様にインターネットCM配信として手続きと使用料の支払いが必要になります。

一般利用広告利用
手続き不要で利用可能JASRAC手続き/支払い必要

ソーシャルメディア(Twitter)

よく利用されているソーシャルメディアの中で要注意なのはTwitterです。TwitterはYouTubeやFacebook/Instagramなどと違って、JASRACと包括の利用許諾契約を交わしていません。そのため、一般利用、広告利用に関わらず、JASRACとの個別の手続き、使用料支払いが必要となります。日本の場合、欧米に比べてTwitterの利用率が高く、企業においても動画マーケティングの一環としてFacebook/Instagramと同様にTwitterにも動画を投稿するケースが多いかもしれません。しかし、Twitterだけは他の主要なソーシャルメディアとは違うので思わぬ落とし穴となります。

●参考:JASRACウェブサイト ー Twitterに自作動画をアップし、JASRACの管理楽曲を使用します。JASRACへの手続きは必要ですか。

一般利用広告利用
JASRAC手続き/支払い必要JASRAC手続き/支払い必要

展示会、店頭など

店頭、デジタルサイネージ、展示会など、放送でも配信(オンライン)でもないリアルな場での上映(オフライン利用)については、もともとすべてJASRAC手続きが必要な利用形態でしたので、以前からJASRAC管理楽曲を避けてロイヤリティフリー 音楽が利用されることが多かったものです。ウェブサイトの項で触れた広告目的複製というルールが導入されて以降、一般利用か広告利用かという判断が複雑になりましたが、どちらにしてもJASRAC手続きが必要という点は同じです。これらに意図せずJASRAC管理楽曲を利用してしまうということが発生してしまうとトラブルの元になりやすいです。

●参考:JASRACウェブサイト ー 店頭でのCM上映・演奏
●参考:JASRACウェブサイト ー デジタルサイネージでの上映等
●参考:JASRACウェブサイト ー 博覧会、展示会、動物園、遊園地、その他これらに準ずる施設でのイベントにおける演奏
●参考:JASRACウェブサイト ー 広告展開利用とは

一般利用広告利用
JASRAC手続き/支払い必要JASRAC手続き/支払い必要

海外発の音楽ライセンスサービスは気をつけよう

ここまで見てきたように、JASRAC管理楽曲をBGMとして利用した映像作品を実際に利用する際には、JASRAC手続きが必要な用途と不要な用途があります。海外発のロイヤリティフリー (と書かれている)音楽ライセンスサービスを利用して、ロイヤリティフリーだと思っていたにも関わらず実際はJASRAC管理楽曲だったということが発覚した場合、JASRAC手続きを行うor確実にロイヤリティフリーである音楽に差し替えるということが必要となります。

ただし、このような場合でも、実際の用途が以下だけであった場合はその必要はありません。(そのまま手続き無しで使い続けることができます。)


しかし、店頭の動画POPモニターで上映するとか、Facebookに投稿した動画を有料ブースト(広告出稿)する、という場合などは、JASRAC手続きが必要となるということを覚えておきましょう。手続きせずに利用した場合は無断利用(=著作権侵害)ということになります。ただ、実際は発覚しない(バレない、バレにくい)ということで放置されているケースが多いのかもしれません。しかし、クライアント企業からの受託制作をする映像制作者の場合、無断利用が発覚した時のリスクは制作者本人のみならず、クライアント企業のコンプライアンスを問われる事態となりかねないということは意識しておく必要があります。

このように、海外発の音楽ライセンスサービスを利用する際には、そのサービスがどのような楽曲を扱っているのか(本当にロイヤリティフリーと言えるのか、それとも、PRO管理楽曲なのか)を利用規約をよく確認してから判断する必要があります。そして、残念ながら海外発のサービスの場合、その多くはPRO管理楽曲(=JASRAC管理楽曲)であるという点を理解しておく必要があります。

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